仙台高等裁判所秋田支部 昭和30年(う)2号 判決
所論は要するに原判決には事実の認定に重大なる誤認があるというに帰するので、記録を仔細に調査し原判決挙示の証拠につき検討して考察するに、原判決記載のとおり被告人は笠松清に対し昭和二十七年九月二十六日までに林檎二車分を発送する意思も能力もないのに之れある如く申し向けて同人を誤信させ、右契約手付金名義で同人から金弍拾五万円の交付を受けた事実を優に認定しうるところであり、事実誤認を窺うべき事由や採証法則違反の違法等は存しない。所論は本件取引の当事者は被告人と小寺正春であり契約の目的物は林檎と闇米であつて被告人は当時之が集荷に努力したが果さずその後被告人に交付した金二十五万円の出資者笠松等の諒解の上小寺正春が被告人に対する約五十万円の債務に向け右二十五万円を充当したものであるというのであつて当審で取調べた証人内山栄治、同田中康雄の供述記載によれば被告人が手付金として受領した二十五万円は昭和二十七年十月一日小寺正春と被告人の代理人として関与した田中康雄との間に被告人の小寺正春に対する五十万円の貸しに対し本件二十五万円を充当する。右二十五万円は笠松清の金であるが小寺正春が同人から借りて斯様にするものである。となした事実は察知しうるところであるが、右は詐欺罪成立後の事実であつて之れが為一旦成立した詐欺罪に何等の消長を来すものではない。爾余の右事実は原審の採用しない証拠或は独自の見解に基く主張であつて輙く賛同するをえない。なお仮りに右二十五万円が闇米買付契約に基く手付金であるから不法原因の為給付をなしたものとなるとするも右は毫も詐欺罪の成立を妨げるものではないことは既に判例とするところで今猶ほ之を改めるの要をみない。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 大島雷三 裁判官 浜辺信義)